前回は古典ヨーガの特徴として『ヨーガスートラ』のなかの教えを実践するということを書きました。今回は、そのなかに出てくるヨーガの方法として有名なお話、8支則について説明していきたいと思います。
ヨーガの目的
みなさんはどのような目的でヨーガを行っていますか。健康になりたい、痩せたい、かっこよく・美しくなりたい、リフレッシュしたい、リラックスしたいなどなど、いろいろあると思います。でも実は、それらはヨーガの通過点としてたまたま達成してしまうもの、副次的な効果でしかありません。もし、そのように思う心が静かになって、そうしたことに悩むこと自体が無くなったとしたらどうでしょうか。
ヨーガの8支則とは、8つの方法、段階のことですが、その説明の前にまず、そもそも何のためにヨガをするのか、ヨーガとは何かについて、古典ヨーガの教科書ともいえる『ヨーガスートラ』を参照したいと思います。
「ヨーガとは、心の働きを止滅することである」
このままだと端的すぎてよくわかりません。私たちの身の回りのことを例に考えてみましょう。私たちは普段、いろいろな物事に心を動かされていますよね。朝おきたら「もっと寝たい」とか、「今日は寒いな〜/暑いな〜」とかからはじまって、あれ食べたい、この服欲しい、どこに遊びに行きたい等々。現代のスマホは、心が右往左往してしまう最強のツールともいえ、流れてくるニュースに一喜一憂し、友人関係に常に気を使い、ゲームで負けたとか、インスタで流れてきたあの子のブランド品の画像がうらやましいとかいって一日中憂鬱になったりします。
そのようにして私たちの心は毎日ゆれ動き続けて、全く休まる暇がありません。その結果どうなるかというと、最悪の場合、ストレスを溜め込みすぎて様々な疾患・病気につながります。昔の人もその時代なりにストレスはあったみたいで、ヨーガの古典のなかにも、ストレスのせいで路上でお酒を飲んだくれる人についての話が出てきたりします。
このように、常に揺れ動き、働き続ける私たちの心をどうにかして静めたい、平穏でいたいというところに、ヨガの必要性がでてくるというわけです。もし心が静かになれば、食べすぎることは無くなるので太りませんし、身体に悪いことをしなくなるので健康になります。身体と呼吸が整い、背筋が伸びてスラッとした感じになったり、ホルモンバランスが調整され、免疫系が活性化して活き活きした感じになってきたりします。このようにして、ヨーガの副次的な効果が生まれてくるのです。
8段階のヨーガ
さてここで、そのような「心の平安」という目的(副次的な効果としては、健康とかダイエットといった効果)を達成する方法としてあげられるのが、8段階のヨーガ(8支則)です。
1.禁戒(ヤーマ)
2.勧戒(ニヤーマ)
3.坐法(アーサナ)
4.呼吸法(プラーナーヤーマ)
5.制感(プラティヤハーラ)
6.集中(ダラーナ)
7.無心(ディヤーナ)
8.三昧(サマディ)
これらだけ読むと、何やらまた難しい話がでてきたぞ、というように思えてきます。
3の「アーサナ」がヨーガのポーズのことだというのは、聞いたことがある人もいると思います。でもなぜ日本語訳は「坐法」(座る方法?)なのでしょうか。
4の呼吸法が、呼吸のさまざまなやり方ということはわかりやすいですね。
ヨーガというと瞑想も重要な要素といえますが、7番の「無心」あたりはかなり瞑想っぽいですね。では5とか6はどうでしょうか。
これらをまずは次のように言い直してみます。
1.してはならないこと(自分以外の人・もの・こととの付き合い方)
2.おすすめのこと(自分自身がなすべきこと)
3.身体の動かし方(よい座り方)
4.呼吸の方法
5.感覚の制御
6.ひとつのこと・ものに意識を集中させること
7.いわゆる瞑想(無心・意識の広がり)
8.自我の消失
ここから改めて見直してみますと、1と2は心がけのようなものと言えそうです。
3と4は今の「ヨガ」(ハタヨガ)として多くのひとが経験しているものです。7の瞑想も行っているかもしれません。6は最近流行っているマインドフルネス(「いま、ここに集中!」)に通じそうです。
全体を見てみると、6から先は意識の話になっていて、4より前と比べて段階が変化しているように見えます。古典ヨーガでは、1から5までを「ヨーガの外的部門」と呼び、ヨーガの準備段階とされます。6から8は「ヨーガの内的部門」と呼ばれ、この3つこそがヨーガの本質であると考えられています。このことをふまえると、私たちがよく目にするヨガの様々なポーズは、ヨガそのものというよりも、どちらかといえばヨガの準備をしている状態であると言えるのです。
次回から、もう少し詳しく、ひとつひとつ見ていきたいと思います。アーサナがなぜ坐法と呼ばれるのかについては、さらにその後に、バリ島の事例なども踏まえて考えていくことにします。