プラティヤハーラ(感覚の制御)の実践として、スークシュマビヤヤーマという、微細でゆっくりとした動きが大切というお話をしました。今回は、この点についてもう少し細かく解説していきましょう。
ただの準備運動?
スークシュマビヤヤーマは多くの場合、アーサナのための準備運動とされています。一般的なヨガスタジオでも、いきなりヨーガの各種ポーズをはじめるのではなく、腕を回したり、上半身を倒したり、ひねったり、ストレッチのような動きをしたりと、準備段階からはじまることが多いのではないでしょうか。これが、通常のスークシュマビヤヤーマにあたります。そこから、徐々に、筋力や柔軟性、バランスが必要なアーサナへと、難易度が増していくと感じられていると思います。
ヨーガにおける集中とは
しかしながら、ここで改めて考えてもらいたいことが、身体の姿勢の難しさではなく、心の集中の難しさについてです。普段の日常生活のなかで、突然「心を集中させて!」と言われても難しいですよね。それと比較して、ヨガのアーサナを行うと、集中しやすいように感じるはずです。そのなかでも、難しいポーズをして頑張っているとき、ハードなエクササイズをしているときは、必死になってそのポーズや運動に集中しているはずです。
その逆に、瞑想しようとして身体を動かさずにいると、つい色々と考えてしまうということがありませんか。「あれ、足の指の爪が伸びてる、切らないと」とか、「手がガサガサしてるからあとでハンドクリーム塗ろうかな」とか、「晩御飯どうしよう」とか、「この後の買い物楽しみ」とか、心当たりがありませんか。恥ずかしながら私はあります。身体が静かになっているので、心がすごい勢いであちこちに向いてしまうのです。
このようにみると、難しいポーズほど心の集中はしやすく、簡単と思われているポーズほど、心を集中させるということは難しいということが言えるわけです。
徹底した意識化
そこで、通常のアーサナと比べて強度が弱く、静かでゆっくりとした動きのスークシュマビヤヤーマにおいてこそ、心と感覚の集中が際立ってくるのです。例をあげて説明しましょう。スークシュマビヤヤーマのひとつに、足首の曲げ伸ばしがあります。これを呼吸とあわせて、確実に、徹底した意識化のなかで行った後、心と感覚を足首の内側に集中させ、そこから生じる変化を感じるようにします。心と感覚の集中がしっかりできていればできているほど、大きな変化を感じるはずです。その変化の奥深さと多様さを感じることが、8支則のさらに高度な段階への橋渡しになります。
微かなものを感じること
集中があまり得意でない生徒さんの場合、変化をあまり感じなかったり、動作をゆっくりと行うことが難しいかもしれません。その逆に、集中に熟達した人の場合、少しの動きでもじっくりと、しっかりと行うことができ、その動きによって生じる体内の変化から多くのことを感じとることができるでしょう。
同じことは、心臓の拍動や胃腸の動きにもいえます。激しい運動をした後は、拍動も激しく速くなり、心臓の動きを誰でもはっきりと感じることができます。しかし、日常的に拍動を感じようとすると、静かにして集中して感じとる必要がありますよね。胃腸も、食べすぎた時にはどっしりとその存在を感じますが、何気ない通常の状態で感じるには集中が必要です。
マントラを唱えること
同様に、マントラを唱えることがプラティヤハーラに含まれることもあります。マントラの音や振動に意識を集中させること、そうした物的な感覚への集中の後は、マントラの意味やイメージという微細な次元へと集中を深化させるようにします。
オームの瞑想でも、はじめは「オーム」というように音を出して響きを感じるようにしますが、その後は、オームのイメージ、オームが宇宙に広がっていく感覚、そこから返ってくる耳に聞こえない音や印象などを感じるようにします。こうした実践がプラティヤハーラにつながるものになります。
刺激を求めすぎていませんか
私たちの世界、とくに資本主義の世界は、私たちにたくさんの刺激を与えて、欲望をかきたて、次々に色々なものを買ったり食べたりするように仕向けています。そのなかに囚われている限り、欲望は際限なく大きくなって、もっと良いもの、もっと綺麗なもの、もっと美味しいもの、というように、「もっともっと」と刺激を求めていくことになるでしょう。
そのような傾向は、今、ヨガの世界のなかにも入ってきています。もっと難しいアーサナを、もっと効果の高いポーズをというように、刺激を求めていませんか。こうした状況のなかだからこそ、むしろ、少しの刺激がもつ大きな力に目を向けてみることが重要です。
Lila Bhuwanaのプログラム
私が主催するリラブワナでは、プラティヤハーラを十分に行うことができるプログラムを用意しています。ヨーガって難しそう、身体が硬いから無理かもと思っている初心者の方には、ヨーガへの導入としてお勧めできます。アーサナや呼吸法をある程度できるようになった中級者の方にも、身体のコントロールの達成度を確認したり、瞑想への橋渡しのために、是非取り組んでもらえたらと思います。